投稿日:2025年6月14日
■ はじめに:いま広告の主役は「メディア企業」ではなく「スーパー」?
近年、広告業界とマーケティング業界で注目を集めているのが「Retail Media Network(リテールメディアネットワーク)」という概念。
かんたんに言えば、「Amazonやイオン、セブン&アイなどの小売業者が、自社の購買データや流通網を活用して、自前で広告配信できる仕組み」のことです。
つまり、店舗やECが“広告メディア”として機能する時代が来ているということ。
従来のテレビ・ネットメディア・Google広告に代わって、リアルな購買データを武器に小売が広告主・メディア両方の立場を担い始めています。
■ Retail Mediaの仕組みとは?
Retail Mediaとは、商品を販売する企業(小売業者)が、以下のような仕組みを構築して広告収益を得るモデルです。
【基本構造】
-
ECサイトやアプリに表示される広告枠を設ける
-
購買履歴・閲覧行動などの1stパーティデータを活用し、精度の高いターゲティングを行う
-
メーカー(広告主)が広告を出稿し、売上に応じて成果報酬が発生
【メディアとしての特長】
-
自社商品の販売と広告収益を両立できる
-
ブランド企業にとっても「商品が売れる場」で広告できる
-
広告=購買直結なので、ROAS(広告費用対効果)が明確に把握できる
■ 国内外の代表的なRetail Media Network事例
海外の先進事例
-
Amazon Ads:小売業として最も先行。検索結果・関連商品表示・Prime Video連携など多層展開
-
Walmart Connect:全米3,000店舗+ECで膨大なデータを統合。メタ・Googleとの連携も
-
DoorDash Ads:フードデリバリー×地域データで、ローカル中小企業向けに高精度広告を提供
日本国内での展開
-
セブン&アイ・ホールディングス:「7&iリテールメディア」設立。nanaco・アプリ会員の購買履歴を軸に広告ビジネスを拡大中
-
イオン×電通:「イオンマーケティング」設立。スーパー内サイネージからデジタル広告、購買分析まで包括対応
-
楽天グループ:楽天市場+楽天ポイント+楽天カードの三位一体データで広告ソリューション提供中
■ なぜいまRetail Mediaが注目されているのか?
-
クッキー規制による「1stパーティデータ」への注目
-
サードパーティCookieが使えなくなる中で、ユーザー同意を得た購買データが貴重な資産に
-
-
広告在庫の“質”が高い
-
商品を探している・買おうとしている“購買意欲の高い層”にピンポイントで広告が届けられる
-
-
ROIが見えやすく、広告主にとって合理的
-
クリック数やインプレッションだけでなく、「購買」までをトラッキングできるため、広告費の最適化が可能
-
-
小売業にとっても“販売+広告”の二重収益化
-
物流・店舗網・ECを持つ強みを「広告商品」としても収益化できる
-
■ 広告主・ブランド側にとってのメリット
-
ブランド認知から購入までを“同じ場で完結”できる
-
リーチの精度が高く、特定カテゴリ・地域に強い打ち出しが可能
-
店頭販促との連携が容易(デジタル棚割・POS連動など)
たとえば、「〇〇県のイオンで売れ筋の冷凍食品をPR」「40代女性の購買データに基づいた商品バナーをECに出す」といった施策が実現します。
■ 今後の展望:Retail Mediaは“第4の広告大国”になるか?
2025年現在、Retail Mediaへの広告投資額は全世界で620億ドル。
2027年には1,000億ドルを超える見込みで、Google・Meta・Amazonに次ぐ「第4のデジタル広告巨大市場」として注目されています。
一方で課題も:
-
プライバシー管理やデータ活用の透明性
-
小売企業の広告運用ノウハウの不足
-
メディアバイイング手法の標準化不足
こうした課題を乗り越えるには、小売×広告×テクノロジーの連携力が求められます。
■ まとめ:Retail Mediaは“買い物のついで”から“戦略の中心”へ
これまで広告主が「出稿する場所」として考えていた小売店やECサイトが、いまや**“自ら広告主を募るメディア”**になっています。
ブランドは「売り場で売るための広告」を出す。
小売業は「商品を売りながら広告で稼ぐ」。
そして消費者は、より自分に合った商品提案を受け取る。
そんな三者にとってメリットのある広告の未来が、Retail Mediaによってすでに始まっています。
コメントを残す