投稿日:2025年6月14日
はじめに:SNSが「疲れる場所」になった理由
情報が氾濫し、正義が叫ばれ、時に悪意が拡散するソーシャルメディアの世界。
かつては「誰でも自由に発信できる民主的空間」として称賛されたSNSも、2020年代に入り、
-
炎上
-
誤情報の拡散
-
分断
-
メンタルヘルス悪化
といった課題に直面するようになりました。
そんな中、注目を集めているのが**倫理重視・共感型のプラットフォーム運営=プロソーシャルメディア(Prosocial Media)**という新しいアプローチです。
プロソーシャルメディアとは?その思想と仕組み
「プロソーシャル(Prosocial)」とは、直訳すれば「他者に良い影響をもたらす行動」のこと。
これをベースにしたメディア設計では、単に発信の自由を守るだけでなく、
-
健康な対話を促進する仕組み
-
誤情報の抑制と修正の仕組み
-
コミュニティ主体の運営構造
が強く意識されています。
つまり、誰もが安心して発言でき、建設的に関われる“デジタル公共圏”の再設計を目指す取り組みです。
主な設計コンセプトと実装例
1. 誠実な対話を支えるUI・UX設計
-
コメント欄で「事実を補足する」「共感を示す」ボタンを実装
-
AIが攻撃的なトーンを検出し、送信前に「この内容は過激かもしれません」と警告
-
表示順を「感情的な反応」よりも「共感数」「信頼性」に基づいて調整
これにより、「目立つことより、伝わること」が優先される設計が増えています。
2. 利用者自身がファクトチェックする「共創型モデレーション」
X(旧Twitter)のCommunity Notesでは、ユーザーがニュースや投稿に対して補足情報や出典を追加できる仕組みが導入されています。
-
これにより、ニュースメディアでは拾いきれない情報の「文脈」が共有される
-
実際に、誤解や分断を招いた投稿の60%以上が、ノートによって拡散抑制されたという調査もあり
また、台湾発のCofactsや、Redditの投票式コメントシステムも、コミュニティ主導の健全化という意味で注目されています。
3. 分散型SNSと「自治コミュニティ」の台頭
中央集権的なSNSの弊害が顕著になる中で、「自分たちのルール」で運営される分散型SNSが支持を集めています。
-
Mastodon:ローカルサーバーごとに独自の規範と文化を形成
-
Threads(Meta)やBluesky:連合型ネットワーク(Fediverse)へ対応を開始
-
PixelfedやMisskeyなど、日本発の新興分散SNSも独自進化中
分散型では「運営者」よりも「ユーザー」が力を持ち、倫理と快適さのバランスを自分たちで決めることが可能になります。
なぜ今、“倫理重視”が必要なのか?
社会・文化・技術の複合的な背景があります:
① 情報の信頼性が損なわれている
-
AIによるフェイク生成(ディープフェイク、生成画像)が一般化
-
誤情報の拡散スピードが、真実の10倍以上という研究結果も
-
利用者が自ら“正しさ”を判断しなければならないプレッシャー
② SNS疲れ・精神的負担
-
他者評価・炎上・過剰比較によるストレス増加
-
Gen Zやアルファ世代では「SNS離れ」が一部で進行中
③ デジタル公共圏の再定義が求められている
-
情報の自由流通 vs 社会的責任 の調整が不可避
-
政治対立や世代間分断を煽らないための「設計の力」が必要
プラットフォーム事業者の新たな役割
従来:
「サービスを提供し、トラブルが起きたら規約で対応」
これから:
「健全な対話が自然に生まれる“空気”を設計するファシリテーター」
これには以下のような施策が含まれます:
-
感情面に配慮したUI設計(怒りを拡散させないアルゴリズム)
-
信頼されるモデレーター育成と報酬制度
-
多言語・多文化対応の情報補完機能
-
“声が小さい人”が浮かび上がるシステム設計
倫理と収益性は両立できるのか?
重要なのは、「善意と経済は矛盾しない」という考え方です。
-
コミュニティが健全なら離脱率が下がり、LTV(顧客生涯価値)が高まる
-
信頼できるプラットフォームは、ブランドにとって“安心して広告出稿できる場”になる
-
ポジティブな発信は二次拡散しやすく、長期的な流入につながる
広告主・プラットフォーム・利用者の三者がメリットを得られるモデルとして、共感型SNSは成長の可能性を秘めています。
まとめ:倫理的で共感に満ちた場を“つくる側”へ
倫理重視・共感型のプラットフォーム運営は、「炎上しないSNSをつくる」ための取り組みではありません。
それは、
-
健康な議論ができる
-
弱い声が埋もれない
-
参加者の自律性が尊重される
という豊かなデジタル社会の土台を育てるプロジェクトです。
企業・プラットフォーム運営者・クリエイター・ユーザー、それぞれが役割を担う中で、私たちはどんな場にいたいのか、どんな関わり方をしたいのか――今、その問いが、かつてなく重要になっています。
コメントを残す